第1章 樹への想い プロジェクトオーナー河尻和憲
― この樹を何かに活かせたら ―
広葉樹が持つ表情の面白さに気がついたのは、10年程前のことだ。
杉や檜などの針葉樹とともに、非常に多くの種類の広葉樹も山から切り出され工場に運び込まれてくる。
ただただ、その多彩な表情に魅せられた。すべてチップにしてしまうには、あまりにも惜しかった。
そう思った木は製材し、天然乾燥のために寝かせておいた。
とりあえずの目的はなかった。
あったのは「これを、いつか何かに使ってみたい」という漠然とした想いだけだった。
そして同時に、木材としてだけでなく、森に生えている樹のことを
もっと知りたいという想いに駆られるようになった。
樹のことについてセミナーがあると聞けば、どこへでも出かけた。
本も数え切れないほど読んだ。気がつけば森林インストラクターの資格も取っていた。
今も、年に何度かは、森の中で樹のことを子供たちに教える。
― ドングリ拾い ―
毎年秋に、ある目的をもって山に入り続けている。
その目的とは、ドングリ拾い。
自分を魅了してやまない広葉樹を種から育てみたいと思ったのだ。
毎回数百個のドングリを拾い、三日間水に漬けておく。
その水も、ドングリが酸欠で死んでしまわないように流水である。
虫に食われたものは拾わないようにしていても、それでも虫食いが混じる。
虫に食われていない、沈んだドングリだけを湿らせたオガクズに埋めて冷蔵庫に保管する。
秋の間に冷蔵庫の中で根が出る。そして翌年の春に鉢に植える。
拾ったドングリの全部が発芽にまで至るわけではない。
自然の営みは厳しいものだと、気づく瞬間でもある。
そして二年を過ぎると、鉢から庭に移植する。
こうして育った苗木は、とても愛おしい。