第2章 意匠の道のり 家具デザイナー 山本真也
― 時間を超えて愛されるデザイン ―
家具デザインをしたいといっても、当時は家具メーカーにデザイナーの求人などはなかったので、
インテリアデザイン会社で内装設計やプロダクトデザインを実践的に学んだ。
空間やヒューマンスケールについて多くの訓練を受けた期間でもあった。
その後、商業デザイナーとして独り立ちした。
一人でプロセス全体に責任を持つことで、そこでしか得られない発想や
クオリティーを学ぶこともできた。
しかし什器や店舗の内装は、新しさ、斬新さこそが求められ、
永く使われるようにデザインされることは少ない。
什器と家具、この二つはデザインという言葉は同じでも考え方が全く違う。
作っては数年でリニューアルというサイクルに、
デザイナーとして満ち足りないものを感じていた。
そんなときに河尻さんと出会ったのだった。
だから、この家具を手がけたいと強く思った。
― 答えは木が教えてくれる ―
正直に言えば、このプロジェクトがスタートした当時は
今のようには樹のことも木製の家具のこともよく分かってはいなかった。
まず無垢材について経験値が圧倒的に足りなかった。
無垢の木は湿度の変化によって「動く」「あばれる」。
木目の方向を考えながら、その「動き」や「あばれ」を手なずけなければならない。
頭では知っていても経験的な知識ではなかった。
丸太から製材をして天然乾燥させ、次に人工乾燥にかけ、
養生期間を経て初めて材として使えることも知ってはいたが、
実際に体験したことはなかった。
家具デザインでは多くの場合、製材された材料を前提にして考える。
ところがMOCTAVEは、その製材のところから考えなくてはならない。
材料にする広葉樹は、小径木の若い木が多く、それだけ動きやすい。
けれども製材の仕方一つで、作りやすくなり無駄も減らせる。
さらに樹種本来の色味をだすためには、材によって天然乾燥の期間も変わってくる。
そんな製材方法までプロジェクトチームで考え、進めていくのがMOCTAVEなのである。
それが正しい時もあれば間違っている時もある。
答えは木が教えてくれる。
だから毎日、ぼくたちは木と知恵くらべをしている。
そして今、おそらくぼくは日本の家具デザイナーとして、とても貴重な経験をしているのだと思う。
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