第3章 匠の手Ⅰ 永田 康夫
― 家具職人の「手の力」 ―
モクターブ・プロジェクトに参加する職人は、みな飛騨地方の出身ではない。
日本の別々の地域で育った彼らは家具作りに惹かれて飛騨に移り住んだ。
共通しているのは、森に生きている「樹」と材になった「木」の両方が大好きであるということ。
そして家具を使ってくれる人との関係をとても大切にしているということだ。
彼らにはデザイナー山本真也が語る「職人の手の力」が溢れるばかりに宿っている。
そうした彼らが、モクターブ・プロジェクトに合流した。
このプロジェクトでしか集まり得なかった。そんな職人たちである。
― 家具を作れば作るほど、樹を敬慕する気持ちが強くなる ―
ふうゆう工房 永田 康夫
飛騨高山を代表する家具職人の一人である。
埼玉県大宮市で育ち、東京の大学に学んだ。
その永田が高山に移ったのは、大学時代の先輩が高山に住みついて、
家具作りを始めていたからだった。
「自分もちょっとやってみようかな。そう思って始めたのが、
いつの間にか40年にもなってしまって」
子供の頃から工作は得意だったが、家具は全く素人だった。
職業訓練校で学び、一つひとつの技を覚えていった。
そして親方のいる工房で五年間働き、独立した。
今では数多い飛騨高山の個人工房だが当時はほとんどなく、草分けとも言える。
ほどなく、多くの雑誌に取り上げられるようになり、
テレビでも紹介されるようになった。
永田の家具作りは、製作の工程を最初から最後まで一人で担う。
他人の手が入らないが故に、納品先に気に入ってもらえても、もらえなくても
すべてが自分に返ってくる。
おのずと感性や技術に厳しくなり、細部までこだわるようになった。
たとえば永田の作る椅子は曲面に部品を組みこむことも厭わない。
曲面に接する胴付き(ドウツキ)と呼ばれる部分にもカーブを持たせなければならないから
工程が複雑になるが、面白いと思うと徹底的に細部まで追求してしまう。
ひと手間多くかけることが苦にならないのだ。
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